インドの塔 日本の塔
わたしは歩いたり、立ち止まったりして物や風景を見るのが好きです。
その時、たとえば、対象に惹かれて、もっと知りたい衝動にかられ
たとき、不思議にその欲求を満たしてくれる人や本に出会えます。
先だって、奈良へ行ったとき、唐招提寺の戒壇(石造り三段)の
円い宝塔に強く惹かれるものがありました。(穏やかなお椀型をした
石組みの中心の柱はどんな意味なのだろう)そう思いました。その帰途、
薬師寺・境内に建つ東塔(三重塔)を眺め、この塔が千三百年もの歳月、
創建時のままの美しい姿なのはどうしてなのかとも・・・。
そんなわたしが偶然手にしたのが『法隆寺の謎を解く』(武澤秀一著・
ちくま新書)でした。主題に関しては略させてもらいますが、建築家
である著者には『迷宮のインド紀行』(新潮選書)など、現地を歩き、
調べ、広い視野に起って探究した本があります。塔の由来から法隆寺
の五重塔に至る話は、謎解きの面白さ、楽しさが存分にありました。
☆ ☆
仏教はインドに生まれ、中国を経て日本へ伝来したのは周知のこと
ですね。話はお釈迦様の遺言から始まります。ブッダは「わたしを
たよってはいけない、とむらってもいけない、修行に励み、これを
完成させよ」と弟子たちを諭したそうです。しかし、ブッダを慕う
人々は涅槃のシンボルとして塔を建て仏舎利(ご遺骨)を納め、祈りを
捧げたことから、塔~伽藍~大乗仏教が興り、広まったのでした。
インドのサーンチーの仏教遺跡群は紀元前一世紀の創建で、インド
中央を東西に走る山並みの麓の高原にあり、石積みの巨大な半球体
で、それを串刺しにして傘付きの石柱が立っている・・・。
アンダ(卵)から宇宙が生まれたというインド神話の宇宙観に
依る仏舎利塔の形です。
そして、我が国では・・・? 深く地中に
埋めた仏舎利は心柱となり、空中高く伸びて相輪を持つ塔になり、
卵は相輪の伏鉢に変化したというわけです。
あ、かいつまんでの記述では、納得いかない不都合も生じますね。
興味を持たれた方は、まず、武澤先生の本をご一読ください。
まるで無意識に撮っていた塔の写真ですが、上は唐招提寺の戒壇
(インド・サーンチーの塔を模した宝塔)。下は薬師寺・東塔。相輪の
一番下に見えるのが伏鉢です。
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コメント
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猫地蔵さん!
講談社ポータルサイト MouRa|正言@アリエス でのウェッブ連載「マンダラの謎を解く」の感想をリアルタイムでお聞かせいただき、著者とともに歩く猫地蔵さんの感興も伝わってきました。ワクワクするような臨場感あふれるレポート、有難うございます。とても愉しく拝読しました。
50ページまで進まれたら、あともう少しですね。塔とマンダラが思いがけないことに、深く結びついていることが納得されて、本当に眼からウロコでした。マンダラって絵のことしか頭になかったですから…
投稿: 回転木馬 | 2007/06/10 18:03
回転木馬さん。メールが届かないのでここに・・。
アリエスの網羅を教えていただいて、すぐに
「マンダラの謎を解く」拝読(P50まで)しました。
武澤さんの著述はすべて現地に立つところから始まるので、
門外漢のわたし如き読者も、先生のあとからノソノソ付き
従ってゆくうちに、太古の世界の不可思議を目前にすること
ができますね。読み始めたところですが、アジャンターの
石窟の祠堂窟・僧院窟の図版に引き込まれました。
列柱回廊こそはわが寺院建築に現存する中心軸を巡り、祈る
大いなる遺産なんですね! サーンチーの塔のところまでで
本日の読書タイムを終わります。ありがとうございます!
投稿: nekozizou | 2007/06/10 13:37
えっ、武澤さんの『法隆寺の謎を解く』を読む前から時計回りにお祈りされていたのですか…!(絶句)
そういえば、お坊さんが回っているのを見たような気もするという程度で、私はあの本で回るという祈りの作法にあらためて気づかされたものでした。
回る、巡るという仏教本来の作法は現在、あまり見かけなくなってしまいました。それでかつての梅原さんのような説が幅を利かせたりしていたのですね。
ところで武澤秀一さんが、あの本のもとになったインド経験をふまえてウェッブ連載を始められたのはご存知ですか?
講談社ポータルサイト MouRa 正言@アリエス
http://moura.jp/scoop-e/seigen/index.html?top_area=r
です。タイトルは「マンダラの謎を解く」です。インドや日本の塔に関心のあるかたには特にオススメ。無料ですし…。ぜひ覗いてみて、できれば感想もお聞きしたいものです。
投稿: 回転木馬 | 2007/06/08 20:10
回転木馬さん、ようこそ! コメントありがとうございます。3月に唐招提寺へ行かれたのですね。あの
戒壇には厳かでしかもやさしい感じを受けました。そして鑑真和上御廟で、時計回りにお祈りしたのですよ。さらには東大寺の戒壇院でも、新薬師寺でも同じ
ようにして拝観した覚えがあります。武澤さんの
ご本でサーンチーの塔の解説を読んで、納得いたしました。不思議な感覚的な歓びを得ることができました。仕合せな巡り合いに感謝をこめて・・・。
投稿: nekozizou | 2007/06/08 15:21
初めて訪問します。よろしく。
>わたしは歩いたり、立ち止まったりして物や風景を見るのが好きです。
その時、たとえば、対象に惹かれて、もっと知りたい衝動にかられ
たとき、…
とても共感します。そんなときこそ、そのときはそうとは意識しませんが、至福の予兆なんだと感じます。生きるって、もともとそういうことの積み重なりなんだと思います。これからも、そうありたいですね。
この3月にわたしも唐招提寺の戒壇を見てきました。じつは武澤さんの『法隆寺の謎を解く』を読んで戒壇のことを知り、見ないではいられなくなって訪れたのでした。この本によれば、あのまわりをぐるぐる歩くはずですよね。気になって、おみやげ売り場にいたお坊さんにそのことを尋ねてみましたが、よくわからない風情。寺務所で聞くように言われ、迷ったのですが思い切って突入!
先方は驚かれた様子でしたが、懇切丁寧に教えて頂きました。答えは、あの本に書いてあるとおり!、儀式の際は何度も回るのだそうです。唐招提寺が戒壇の走りですので、こちらから東大寺にまで出向くこともあるとおっしゃっていました。もちろん東大寺戒壇堂でもぐるぐる回ると。
見て、歩いて、知ることの歓びに優るものなし…ですね。
投稿: 回転木馬 | 2007/06/08 09:46
ありがとうございます。
興味のあることなら、しっかり覚えられるのに
困ったもんですねぇ~
でも今までそうやって生きてきてしまったのですもん。
これからも そんな風に生きていきます。
それでいいって仰っていただいて
安心しました。ホッ♪
投稿: なを | 2007/06/06 22:24
なをさん。東大寺の大仏殿で法話をお聞きに
なったのですか。すご~い! お寺の由来や
仏像についてはわたし、法話をお聞きしても
わかりません。お経となるとなおさらです。
それでいいの。なをさんはなをさんだけの
感受性であることが大切です。偉そうにいって
ごめんなさい!
投稿: nekozizou | 2007/06/06 09:52
zuccaさん、生半可な紹介の仕方にやさしい
コメントをくださって感謝、感謝!
私たち、お墓を建てて、香華を供えて、御参り
するでしょう? いつからそういうことに
なったのしら・・・なんて思っていたのです。
インド(お釈迦様)に起源がありました。
やっぱり、古い塔の話は面白いですね。
投稿: nekozizou | 2007/06/06 09:42
うううーむ
ごめんなさい。
分かりませんでした。
以前 東大寺のご住職に大仏さまの歴史とか
意味とか 色々 ご説明戴いたのですが
(たしか2時間近くお話してくださいました。
一般の方の登れない、大仏さまの御座の傍で)
その時は必死でノートに書き留めたりして
で、帰ってきて読み返そうとしても
全くさっぱり自分で何を書いたのかも分からない…
そんなこんな おバカさんですので
きっと ご本を拝読しても 無理ですね。
分からなくても、感動は出来ます。
それでいいことに してくださいませね♪
投稿: なを | 2007/06/05 21:34
こんにちは。
建造物ひとつとっても 深い意味があって、ちゃんとつながりがあるのですね。
紀元前のインドまでさかのぼって・・・気が遠くなりそうですが、面白そうでもあります。
投稿: zucca | 2007/06/05 17:00